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第1回目指導 指導者講習
11月27日(土)〜28日(日)
高知県ミニバス・中学・高校現場の指導者の皆様 鈴木 良和
■関谷 悠介

指導のねらい
★講習の目的とその目的に対する成果の確認
★具体的手法の解説
バスケットボールの家庭教師

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1.6つの成果  今回の講習のテーマは、「個人の能力を高める」です。このテーマを考える上で、まずは2つのことを考えなければならないと思います。
@能力が高いとはどういうことか
A能力とはどんなものか


 僕は「バスケットボールの家庭教師」という活動で子どもの個人能力アップを目指した指導をずっと行ってきました。その経験の中で、この2つについていま整理していることをご紹介しました。

 バスケットボールの能力が高いかどうかということは、
勝利への貢献で評価できると考えています。勝利への貢献を具体的に評価するために、バスケットボールの勝敗がシュートの本数とシュートの確率によって決定することを皆さんに模式で紹介しました。

 勝利への貢献とは、次の6つに分類されます。
1)自チームのシュート本数が増える
2)自チームのシュート本数を減らさない
3)相手チームのシュート本数を減らす
4)相手チームのシュート本数を増やさせない
5)自チームのシュート確率を高める
6)相手チームのシュート確率を下げる


 すなわち、今回の講習を行った結果、そのチームのシュートの本数が増えたり、シュートの確率があがっていないのであれば、それは成果につながっていないということです。

 逆に、今回の講習で紹介したことを練習した結果、ミスが減ったり、シュートの確率が上がったり、より確率の良いショット場面を増やすことができたりしていれば、それは選手の能力が向上したと評価できると思います。

2.5つの個人能力  それでは、この6つの成果につながる選手個人の能力にはどんなものがあるのでしょうか。ドイツの大学が発表しているような細かい分類だと分かりにくいので、我々が指標にしている5つの能力を御紹介しました。

1)身体能力
・高さ(背の高さ・手足の長さ・ジャンプ力など)
・速さ(アジリティ・クイックネスなど)
・力強さ(重さ・筋力など)
・持久力
などといった、身体自体の能力

2)運動能力
・バランス
・リズム感
・定位能力
・分化能力
・識別能力
・反応能力
・適応能力
・見る能力
 など、コーディネーション能力を主とした、身体を上手に使う能力

3)技術
・ハンドリング能力(シュート・ドリブル・パスなど)
・フットワーク(ストップ・ステップ・ピボットなど)
・1on1ドライブテクニック・ディフェンステクニック
など

4)状況判断
・より確率の良い方を選ぶ力
・より少ないミスで効果的なプレーを選択する力
・ディフェンスにおける予測や判断など

5)メンタリティ
・負けず嫌いさ
・最後までやりぬく力
・リーダーシップ
など

 これらは相互に密接に関わっているので、どれかの部分だけが個別にパフォーマンスを構成しているわけではありません。
 相互の関係を分かりやすく説明すると、身体能力が高い選手が低いハンドリング能力だと、ドライブ中にボールを置いてきぼりにしてしまったりします。

 これらの能力の中で、何がボトルネックになっているのかを見極め、その能力が高まるように練習の中で課題を与えていくとパフォーマンスを高めることができます。

 例えば、ディフェンスが近くにいるのにシュートを打ってしまうというような判断力の問題でシュートが外れている子に、シュートフォームなどの技術の改善を行ってもなかなか成果としての試合での確率アップにはつながりません。
 
 このような事例を紹介しつつ、今回の講習の目的をお伝えしました。

 「これら能力のボトルネックを改善し、これまでミスしてしまっていたようなプレーでミスが少なくなったり、落ちていたシュートが入るようになったりという勝利への貢献につなげること」
 これが、今回の講習内容の目的です。

3.講習内容の全体像  今回の講習では、上記の5つの能力の中でも特に
・運動能力
・技術
・状況判断

の3つに焦点をあてていくことにしました。

4.運動能力を高める練習について
 何かが欠けた状況を補う能力を高めるようなイメージです。例えば、相手との接触で崩れたバランスを、他の定位能力や識別能力などがおぎなって結果的にシュートを決めるという感覚です。ちょうど、目の見えない人が聴覚や触覚を研ぎ澄まして視覚の分を補うような感じだと思います。

 このたとえから分かるように、運動能力を高める方法としては、
外乱因子と呼ばれる課題や負荷を与えていくイメージを持って頂くとよいと思います。
 そうすることで、脳が身体をコントロールするためにより多くの神経をはりめぐらせることになり、結果的にコート上での運動能力が高まっていくというイメージです。

 こういったトレーニングで脳からの指令が伝わりやすい身体にすることによって、
トレーナビリティも高まっていきます。トレーナビリティが高まるとは、運動の学習が速くなるという意味です。同じ技術を身につけるのに、1時間かかっていた事が30分でつかめるようになるといった感じです。

 このトレーナビリティの向上こそが、個人の能力アップを考えていくうえで非常に重要になると思います。

5.技術を磨く過程について  今回はシュート技術と1on1のテクニックを中心にクリニックしました。この2つはそれぞれに違った特徴があります。

 シュートに関しては、「シュートを打つ」という判断を下した後に、ディフェンスに対応して技術を変えることが稀なため、技術自体には
高い再現性が必要です。こういった技術は、武道などのように型を重視した反復練習が重要です。
 より成果につながりやすいフォームを、再現性高く行えるように反復練習していく必要があります。

 1on1の技術は、
相手に対して技術を使いわける必要があります。こういった技術をオープンスキルと言います。
 クローズドスキルというのは、陸上や器械体操というように相手に応じて技術を変える必要がないものです。こういったスポーツは、本番でいかに練習通りに行うかが重要になるため、繰り返し反復する練習は重要な意味を持ちます。

 オープンスキルのスポーツであるバスケットボールにおいて、こういった1on1のようなスキルは繰り返しの反復練習だけではパフォーマンスの向上につながりにくいのです。むしろ、反復のしすぎで動作がシステム化しすぎてしまい、相手に対応できない身体になっていく可能性もあります。反復のさせ方が非常に重要です。
 技術自体がなめらかに行えても、ディフェンスに対してどのようなタイミングで使うべきかが分からなければなりませんし、それを止められそうになった場合にその逆を突くテクニックが発揮できることが優秀さにつながります。

 そのため、1on1などディフェンスに対応する技術を磨いていく場合は
1.シャドー
 ディフェンスをつけないで、その動き自体が「より速く」「より力強く」「より正確に」行えるよう練習する。

2.ダミー
 その技術を使うべき状況をダミーがつくって練習する。相手との距離感をつかみ、その技術を使うべき状況をイメージしやすくする。

3.ディシジョンメイク
 表の技術Aを練習し、ディフェンスが表を止めに来たら使う裏の技術Bも練習したら、ディフェンスがAとBの状況を作って練習します。どちらの状況になるかはわからない中で、その状況に応じて練習した技術を使いわけられるようにします。

4.ライブ
 相手が真剣に止めに来るなかでの練習です。この中で練習したAやBの技術が出るようになれば技術が身につき始めたということになります。

 1on1のようにオープンスキルの技術に関してはこのようなステップを踏んでいくことが効果的です。今回の講習会ではこういったステップの踏み方をご紹介します。

5.判断する力を高める練習について  判断する力を高める上でも、重要なことは負荷のかけ方です。見えているということと、見たものの情報を整理したり処理することができるということは別な問題です。

 判断を高めていくうえで、視野を広げるトレーニングだけではうまくいきません。処理する能力を高めていきましょう。

 
戦術的ピリオダイゼーションという考え方の中には、戦術的負荷という考え方があります。

 例えば、スクリーンのプレーに対してスイッチかスイッチなしかでプレーを選ぶのは2択の負荷ですが、それに追加してその後の逆サイドのヘルプが来てるかどうかまで判断しろというと、戦術的負荷が高まります。

 
選手達により高い判断力を身につけさせたかったら、徐々に戦術的負荷を高めていきながら判断力をトレーニングしていく必要があります。

 
最近接達成領域というのがあるので、“もう少し頑張ればなんとかクリアできる!”という適切な負荷を与えないといけません。

 負荷が大きすぎると、課題が難しすぎて選手達の能力向上は期待できなくなります。逆に負荷の軽すぎる練習は子ども達の能力向上にあまり役立ちません。

 先程の外乱因子についても、この戦術的負荷についても、選手達の能力に応じて負荷をコントロールしていくことが指導者側の重要な役割になると思います。

 今回の講習では、判断能力に対するオーバーポテンシャルの練習をご紹介しました。戦術的負荷の高め方をドリルの中でご紹介したかったのですが、残念ながらこの部分についてはあまりお見せすることができませんでした。また次回、ドリルの中でご紹介していきたいと思います。

6.選手の練習に対する価値観について  選手の能力アップを考える上で、根本的なところで肝心になってくるのは選手一人一人の価値観・考え方・物事の捉え方(パラダイム)です。

 ここが変わらない限り、いくらテクニックを紹介してもそのテクニックがより高いレベルまで磨かれることはありません。

 技術の高さは習慣によるものであり、習慣は行動の積み重ねです。行動は一人一人に考え方・価値観で決まるため、結局のところ選手それぞれがどう考え、どう行動するかにかかってくるのです。

 今回の講習会では、選手の価値観を変える上でこれまでに役立ったエピソードをいくつかご紹介しました。

●婦人と老婆のだまし絵
●言われたことすらできない選手<言われたことをきちんとやる選手<言われたこと以外も工夫する選手


 これ以外にも、各ドリルで有名選手の例を出したり、目標数値を設定したり、選手それぞれの練習に取り組む姿勢自体が向上するような仕掛けをいくつか用意しました。こういった側面も重視していくことがこれから重要になると思います。

7.具体的な内容について
 これらのような背景をふまえて、ドリルを組み、内容を以下のように構成しました。

1.導入
 アイスブレイク(緊張をほぐす練習)を行いました
2.運動能力アップトレーニング
 ・まずは手足の自由なコントロールの練習に入る前にその前提となる体幹への刺激をいれました
 ・カップリングなど、トレーナビリティの向上に効果的なドリルを優先して紹介しました。
 ・個人の能力差があっても、それぞれが常にフローを味わえるレベルチャレンジ型ドリルを紹介しました。
3.シュート技術
 シュートの基本について、基礎知識、考え方、具体的手法をご紹介しました。
4.1on1のステップテクニック
5.1on1のドライブテクニック
 ・対峙した状態から
 ・ドリブルから
 ・パスキャッチから
6.状況判断のオーバーポテンシャルドリル

 指導の感想と次回へ向けてのコメント
鈴木指導員からのコメント
 今回の講習に関して、講習を始める前に指導者の方々に集まって頂いて、目的やその考え方の背景にある情報を解説させて頂きました。その解説を簡単にまとめたレポートです。
 
 今回の講習がより深く高知県の皆さんに伝わり、より大きく貢献できるように、内容を吟味したつもりではありますが、すこし急ぎ足での説明となってしまったので、今回のレポートを再度確認して頂き、もう一度整理し直して頂けたら幸いです。各ドリルや技術について、より一層理解を深めて頂くことができると思います。

 私もまだまだ勉強中の身なため、長く指導現場に立たれている皆様に色々とご紹介することは大変恐縮ではありましたが、今回の講習内容で一つでも二つでも皆様にとって発見や気づきのきっかけにつながっていれば幸いです。

 今回は貴重な機会を頂きまして誠にありがとうございました。また次回も楽しみにしております!
 それでは、今後とも何卒宜しくお願い致します。

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